紙帳しちょう)” の例文
中にはさっき狂乱して引きちぎった紙帳しちょうがばらばらになっていた。お岩の亡霊もいて入って来た。伊右衛門はふるえあがった。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紙帳しちょうとていってな、紙で張った蚊帳かやみたいなものを釣って寝るのだ。寒さよけにもなるしな、火をいておくと、熊はくるがおとなしいよ。」
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と源次郎は慾張よくばり助平すけべいとが合併して乗気のりきに成り、両人がひそ/\語り合っているを、忠義無類の孝助という草履取が、御門ごもんの男部屋に紙帳しちょうを吊って寝て見たが
いえ、もうすぐにお判りになりますわ。あの男は、いま紙帳しちょうの中で眠っておりますの——下が高簀子たかすのこなものですから、普通の蚊帳かやよりもよほど涼しいとか申しまして。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その中央なかほどに、紙帳しちょうが釣ってあり、燈火ともしびが、紙帳の中に引き込まれてあるかして、紙帳は、内側から橙黄色だいだいいろに明るんで見え、一個ひとつの人影が、そのおもてに、朦朧もうろうと映っていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子や妻の紙帳しちょうに近く、夜はやすんだが、長政は、具足も解いたことはない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向う角の女郎屋じょろやの三階の隅に、真暗まっくらな空へ、切ってめて、すそをぼかしたように部屋へ蚊帳かやを釣って、寂然しんと寝ているのが、野原の辻堂に紙帳しちょうでも掛けた風で、恐しくさびれたものだ、と言ったっけ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨もりも天井ちかき紙帳しちょうかな 十丈
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その夜は、早めに、彼は紙帳しちょううらへはいった。そして枕につきかけると
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林の中に、白い方形の物が釣ってあった。紙帳しちょうらしい。暗い林の中に、仄白く、紙帳が釣ってある様子は、巨大な炭壺の中に、豆腐でも置いたようであった。声は紙帳の中から来たようであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紙帳しちょうの中へゴソ/\ともぐって、頭の上へ手を上げて一生懸命に拝んで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)