純朴じゅんぼく)” の例文
そのほか黒山のようになった人だかりからも、口々にばてれんの徳をたたえる声が揚った。自分たちの純朴じゅんぼくをもって、単純にみな随喜した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お座敷も殊勝に敏捷びんしょうにしていたので倉持にもそこいらの芸者から受ける印象とは一風ちがった純朴じゅんぼくなものがあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしクリストフは、遠くから自分を見守みまもっていてくれて、将来自分の生活中に大なる場所を占むることとなる、この純朴じゅんぼくな愛情の存在を知らなかった。
気持は純朴じゅんぼくで、こまかいところにもゆき届いた思いりをもっている。それこそ針や糸の心配までして呉れるが、黙って持って来て、こちらで気づかないうちに置いてゆく、というふうであった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ただ権力がそうさせるのだな、純朴じゅんぼくな民ほど官権をこわがるから、官権をおそるる余り、自分たちの土……兄弟を、郷土から追い出そうとする」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
純朴じゅんぼくな他の多くの青年と同様に彼も、なんと定義していいかわからないような、通俗芸術だの民衆の音楽会や芝居などという大計画を、考えめぐらしていた。
純朴じゅんぼくな人々ばかりである。中には紋付袴もんつきはかま慇懃いんぎんを極める人もあって、野人の私はすくなからず恐縮したが、そのなかに本位田兵之助という名刺を示された人がある。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が悪い口実をもあまり真面目まじめに取ってるので、コーンは愉快なおかしさがこみ上げてくるのをつとめて押し隠しながらも、相手の滑稽こっけい純朴じゅんぼくさに気が折れてしまった。
彼らから鼓吹された宗教上の敬畏けいいの念も、人生にたいする信頼の念も、他人を愛しまた他人から愛せられようという純朴じゅんぼくな欲求も、盲目的ではあるが絶対的である道徳上の信念も。
純朴じゅんぼく、そちの如き者なれば、後にはきっと大功をあらわそう。……が、まずその奉公の手始めに、そちが勝頼に他意なしという確証を見たい。どうだ、心のあかしを、きっと、示して見せられるか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日書くものは明日のために滅ぼされるかもしれなかった。それでも彼らは書きつづけた。そして少しも悲しんでいなかった。何物も彼らからその勇敢な純朴じゅんぼくさを失わせ得なかった。
「そう言うのは多少いいことです。」とクリストフは純朴じゅんぼくな調子で言った。