ささら)” の例文
けれどもささらで神経を洗われる不安はけっして起し得なかった。要するに彼らは世間にうといだけそれだけ仲の好い夫婦であったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
材は松板をったものでありますが、茶人だったら塵取ちりとりにでも取り上げるでしょう。荒物屋ではまたささらのような茶筅ちゃせんを売ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼らは往々竹細工に従事し、その所製の茶筅ちゃせんささらを檀家に配るの習慣を有した。これ彼らの徒にチャセン或いはササラの称ある所以である。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
爼板まないたの出してあるは南瓜を祝うのです。手桶の寝せてあるはたがの切れたのです。ざるに切捨てた沢菴たくあんの尻も昨日の茶殻に交って、ささら束藁たわしとは添寝でした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
烈しく逆浪に揉まれたか岩礁に摩擦されたかして、堅牢な函板はささらのように木膚がそそけ立っていた。ともかく莫迦大ばかでかい上にドッシリとして、かなりの重さがある。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
楽器には絃楽器はなく、ささら腰鼓くれつづみ、フリ鼓、銅鈸子どびょうしといったような類。ものによっては笛もつかう。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもに堅いかしの棒の一端は、みるみるささらのようにムク犬の口で噛み砕かれていました。
激情はふたたび背中をがりがりとささらでこするやうに、かれをワナワナふるへさせた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
かえりしな、物欲しそうにして店の中を見まわしているので、寿女は、嫂が不自由しているという笊だのささらだのを風呂敷いっぱいに包んで持たせてやった。親戚の人たちが来ても矢張りこうであった。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
彼らは竹細工を内職として、茶筅或いはささらを造ってこれを売り、またその檀家とするところに配ってまわったが為で、そんな名称を得たのである。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
この堅い棒をささらのようにしやがったぜ、恐ろしい歯の力だ、死物狂いとは言いながら、まだこんなに恐ろしい歯を持った畜生を見たことがねえ、なるほど、これじゃあ殿様がもてあまして
「そいつもよかろう、じゃそのささらと四角い木だけを背中へ背負しょいこみねえ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
特殊民の一部族にしゅくの者というのがあります。これはハチヤとか、茶筅ちゃせんとか、ささらとか、産所とかいう類のもので、比較的世間からいやがられませぬ。
あるいは茶筅ちゃせんとか、鉢屋はちやとか、宿しゅくとか、ささらとか、トウナイとか、説教者とか、いろいろの名称をもって呼ばれましたが、身分は賤しい者と思われても
御坊おんぼと呼ばれ、番太と呼ばれ、茶筅ちゃせん或いはささらと呼ばれ、説経者と呼ばれたのもまた同じ様なもので、由来賤職に従事するものは決して常に同一職業をのみ固執しているものではない。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
宿しゅくの者、垣内かいとの者などと云い、職業とするところから、皮屋、皮坊、皮太、茶筅、御坊、鉢屋、ささら、説教者、博士など、種々の名称があるが、要するに河原者と云い、坂の者と云い
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ささら・説経・祭文・市子・梓巫の輩、あるいは田楽(猿楽)・万歳・春駒・夷舁えびすかき、大黒舞・傀儡師などの諸芸人、あるいは山陰道筋に多い鉢屋(大和などにも警吏の一種にこの名があった)
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)