かたみ)” の例文
小草おぐさ数本すほんに、その一本を伝わってさかしま這降はいおりる蟻に、去年の枯草かれぐさのこれがかたみとも見えるあくた一摘ひとつまみほど——これが其時の眼中の小天地さ。
えびらといふは如何なる物か知らねども、この歌にては桑の葉をみ入れるかたみの類かと見ゆるが不審に存候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
されど母上はしば/\我に向ひて、そなたのためならば、彼につきあひおくとのたまひき。餘所よその人の此世にありて求むるものをば、かの人かたみの底にをさめて持ちたり。
もう然様いう境界きょうがいを透過した者から云わせれば、所謂いわゆる黒山鬼窟裏の活計を為て居たのであった。そこへ従僕が突として現われて、手に何か知らぬ薄いかたみ様のものを捧げて来た。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かたみの簪、箪笥たんすきぬ、薙刀で割く腹より、小県はこの時、涙ぐんだ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて浮世のひまが明いて、かたみに遺る新聞の数行すぎょうに、我軍死傷少なく、負傷者何名、志願兵イワーノフ戦死。いや、名前も出まいて。ただ一名戦死とばかりか。兵一名! 嗟矣ああの犬のようなものだな。