筆鋒ひっぽう)” の例文
大江匡房は詞藻の豊な人であって、時代も近い人だったから、記せぬわけにもゆかぬと思って書いたのであろうが、流石さすが筆鋒ひっぽう窘蹙きんしゅくしている。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
書道観にいささかの誤りがなく、立派な理解の上に、正しい筆鋒ひっぽうを遺し、書道芸術を美しく物語っているからである。
良寛の書 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
議論快截かいせつ筆鋒ひっぽう鋭異ニシテ、雅ハ髯蘇ぜんそノ風アリ。詩ハ剣侠ノ仙ヲ学ブガ如シ。時ニ殺気ヲ見ルノ間綿麗ノ語ヲナス。すなわちマタ黄鸝こうりノ百てんスルガ如ク、婉約えんやく喜ブベシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まず漢室の式微をいい、馬騰ばとうの非業の死を切々ととむらい、曹操の悪逆や罪状を説くにきわめて峻烈な筆鋒ひっぽうをもってこれをただし、そして馬超が嘆きをなぐさめかつ激励して
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかして何もせぬ、あるいはまた責任のない事をするのが一番められる。世の中を見渡すに何らの責任ある位地におらず、単に筆鋒ひっぽうなり口先きで批評のみする人が一番評判がよい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
つつしんで筆鋒ひっぽうかんにして苛酷かこくの文字を用いず、もってその人の名誉を保護するのみか、実際においてもその智謀ちぼう忠勇ちゅうゆう功名こうみょうをばくまでもみとむる者なれども、およそ人生の行路こうろ富貴ふうきを取れば功名を失い
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)