空腹ひだる)” の例文
雪女が寒いとぬかすと、火が火を熱い、水が水を冷い、貧乏人が空腹ひだるいと云うようなものだ。うぬが勝手の我ままだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺の門を出たのはひる大分だいぶん過ぎてゐて、ぺこぺこになつた胃の腑のなかでは、先刻さつき虫干で見た呉道子ごどうしの観音さまや、一休和尚の木像やが空腹ひだるさうに欠伸あくびをしてゐた。
サントジャンの祭日にちなんだ大饗宴があると披露されたにより、空腹ひだるい腹をかかえ、食堂の長椅子にたぐまって片唾かたずをのむところ、薦延せんいん数時間、ようやく十時真近になって
(あああ、待ちたまえ、さかさになった方が、いくらか空腹ひだるさがしのげるかも知れんぞ。経験じゃ。)
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内に寝ていてさえ空腹ひだるうてならぬ処へなまなか遠路とおみち歩行あるいたりゃ、腰はいたむ、呼吸いきは切れる、腹はる、精は尽きる、な、お前様、ほんにほんに九死一生で戻りやしたよ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冷い、とめたのは妙ですけれども、飢えて空腹ひだるくっているんだから、夏でも火気はありますまい。しにぎわに熱でも出なければ——しかし、若いから、そんなにせ細ったほどではありません。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万口ばんこう一声、「ああ空腹ひだるい。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)