空咳からぜき)” の例文
空咳からぜきの出る疲れ病にかかったことも、疲れ病と同時に男の病に迄罹る人間もあることを思えば、少くとも一つの病だけは免れたことになる。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「なに、なんの用できたね」ケルミッシュが空咳からぜきをした。見るとなんだか、不味まずいものがいっぱい詰まったような顔だ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こんどはくすぐられるようにおかしくなり、危く失笑しそうになったので、慌てて空咳からぜきをしながら、「よくわかりました」と、もっともらしく頷ずいた。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
風折烏帽子かざをりえぼし淨衣じやうえ利休りきうを穿いて、右の手にしやくを持つてゐる。出入の度に門の敷居を跨ぐ時、「えへん、えへん」と空咳からぜきをするのが、この人の癖であつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お上人は急に行詰ゆきつまつたやうな表情をして、てれ隠しに一寸空咳からぜきをした。無理もない、中有の野に虫が居るか居ないかといふ事は、どのお経にも書いてなかつた。
ねばねばと優しい声を、舌でねて、ねッつりと歯をすかす、ことばのあとさきは、咽喉のどの奥の方で、おおんと、空咳からぜきをせくのをきっかけに、指を二本鼻の下へ当てるのです。これは可笑おかしい。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
探偵は自分の迂闊うかつ空咳からぜきまぎらせておいてから、さて主人の耳にささやいた。
おどし空咳からぜきをした。機嫌執りをしてもその手は喰わぬと云う意味である、ところが相手はいっこう感じない様子で
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此の話の主人公たる哀れな男は、どうやら、此のあとの方の病気にかかっていたらしい。絶えず空咳からぜきをし、疲れる。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
えへんえへんと空咳からぜきをしながら、慌ててうち消そうとしたが、直二郎はすかさず
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)