てまえ)” の例文
てまえに、残らず自分の事を知っていて来たのだろうと申しまして、——頂かして下さいましな、手を入れますよ、大事ござんせんか——
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前の処の娘をわきで欲しがる番頭とか旦那とか有るから世話を致そうと申しますが、てまえ取合いませんでした、すると昨年の暮廿九日に又てまえ方へ参りまして、三十金並べまして
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
てまえのそのたわけさ加減、——ああ、御無事を祈るに、お年紀としも分らぬ、貴辺の苗字だけでもうかがっておこうものを、——心着かぬことをした。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まず生命いのちに別条のないばかり、——日が暮れましたで、てまえ御本堂へだけ燈明をけました。で、縁の端で……されば四日頃の月をこう、」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これだけでは、よう御合点はなりますまいで、てまえのその驚き方と申すものは、変った処に艶麗あでやかな女中の姿とだけではござらぬ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、何か存じません、待合さんかも、それは分りませんが、てんでてまえの方で伺う気はござりませなんで、頭字かしらじも覚えませぬよ、はい。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一挺お貸し下さいまし、……と申しますのが、御神前に備えるではございません。てまえ、頂いて帰りたいのでございます。」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「で、その初会の晩なぞは、見得に技師だって言いました。が、てまえはその頃、小石川へ勤めました鉄砲組でございますが、」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と打傾いて、遠くへな、てまえを導いて教えるような、その、目は冴えたがうっとりした顔をじっと見ながら聞き澄ますと、この邸じゃありません。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「至極でがす。いやてまえ望む処、先生というたてがありゃ、二日でも三晩でも、お夏さんの前途を他所よそながら見届けるまでは居坐って動きません。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは、もし、万ヶ一ほんとうに仰有おっしゃって遣わされたにしました処で、てまえは始めからその気では聞きませなんだよ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それっきり見返りもしなかったが、オヒャ、ヒュウイ、ヒヒャ、ユウリというのが、いつまでもてまえ、耳の底に残るんで。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「滅相な、何の貴女。お忘れ下さるのが功徳でござりますよ、はい、でもてまえはざっとお見覚え申しております、たしか……滝の家さんのお妹御……」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「え、え、釈迦八相——師匠の家にございまして、てまえよく見まして存じております。いや、どうも。……」
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てまえ、取って六十七歳、ええ、この年故に、この年なれば御免をこうむる。が、それにしても汗が出ます。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ど、ど、どれも諸家様の御秘蔵にござりますが、少々ずつ修覆をいたす処がありまして、お預り申しておりますので。——はい、店口にござります、その紫の袈裟けさを召したのはてまえが刻みました。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はあ、お呼びなされたはてまえの事で。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)