神鳴かみなり)” の例文
清元浄瑠璃きよもとじょうるりの文句にまた一しきり降る雨に仲を結ぶの神鳴かみなりや互にいだき大川の深き契ぞかわしけるとは、その名も夕立と皆人の知るところ。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その癖前に恐しかつた犬や神鳴かみなりなんともない。僕はをととひ(七月十八日)も二三匹の犬がえ立てる中を歩いて行つた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
初より条理以外に成立して居る恋は今更条理を考えて既往を悔む事はないはずだ。ある時はいとしい恋人の側で神鳴かみなりの夜の物語して居る処を夢見て居る。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
尤も事実は水雞の声にそういう力があるわけではなく、夜嵐や神鳴かみなりのしずまったあとに啼き、狐火の見えなくなった闇に啼くのであろうが、言葉の意味はどうしても水雞にそぐわぬうらみがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
のみならず神鳴かみなりも急に凄じく鳴りはためいて、絶えず稲妻いなずまおさのように飛びちがうのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしはをんなあはせたとき、たとひ神鳴かみなりころされても、このをんなつまにしたいとおもひました。つまにしたい、——わたしの念頭ねんとうにあつたのは、ただかうふ一だけです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしは女と眼を合せた時、たとい神鳴かみなりに打ち殺されても、この女を妻にしたいと思いました。妻にしたい、——わたしの念頭ねんとうにあったのは、ただこう云う一事だけです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)