硝子張ガラスばり)” の例文
樹を見ても家を見ても往来を歩く人間を見てもあざやかに見えながら、自分だけ硝子張ガラスばりの箱の中に入れられて、外の物とじかに続いていない心持が絶えずして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それさへも今日は善意な一瞥いちべつらしく思へた。何もかもが調子の好い日だ。いつの間にか高い硝子張ガラスばりの屋根から秋の日光が直射し出した。と、軈て昼飯のブウが鳴り渡る。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
もっともそのお客さんは、硝子張ガラスばりの調剤室の中で動いている女幽霊を幽霊とは思わないで、それはこの薬局の婦人薬剤師だと思ったので、外から声をかけたのであった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
硝子張ガラスばりの障子を漏れる火影ほかげを受けているところは、家内やうちうかがう曲者かと怪まれる……ザワザワと庭の樹立こだちむ夜風の余りに顔を吹かれて、文三は慄然ぶるぶると身震をして起揚たちあが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
小さな硝子張ガラスばりの箱に鯛などの形した干菓子の入つたのが有りましたから、それを二箱買つて、一つを子供の手に握らせると、それで機嫌が直つて、私の行く方へ隨いて來ました。
通路は環状になっていて、手前に欄干らんかんがあり、前が厚い硝子張ガラスばりの横に長い窓になっていた。通路を一巡いちじゅんすれば、上下相当の視角にわたって四方八方が見渡せるのであった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
合わすひとみの底に露子の青白い肉の落ちた頬と、くぼんで硝子張ガラスばりのようにすごい眼がありありと写る。どうも病気はなおっておらぬらしい。しらせはまだ来ぬが、来ぬと云う事が安心にはならん。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)