石磴いしだん)” の例文
ばかされながらもその頃までは、まだ前後を忘却していなかった筈ですが、路地を出ると、すぐ近く、高い石磴いしだんが、くらがりに仄白ほのじろい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、みちの上に新しい石磴いしだんがあって、やはり新らしいひのきの小さな鳥居とりいが見えた。勘作はたしかにこれだと思ってその石磴をあがって往った。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
高い石磴いしだんを登って清洒せいしゃな神護寺の境内に上って行き、そこの掛け茶屋に入って食事をしたりしてしばらく休息をしていたが、あおく晴れた空には寒く澄んだ風が吹きわたって
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ユキが走つて行つて、そこの離々と茂つた草原の中の普請場で鉋をかけてゐる大工さんに訊いて見てから、二人は直ぐ傍の線路を横切り、老杉の間の古い石磴いしだんを上つて行つた。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
有田郡奥山村の白山社を生石おいし神社に併せ、社趾の立木売却二千五百円を得、合祀費用三百五十円払いて、残り二千百五十円行方不明、石磴いしだん、石燈籠、手水鉢等はことごとく誰かの分捕りとなる。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
清水きよみず石磴いしだんは、三階五階、白瀬の走る、声のない滝となって、落ちたぎり流るる道に、巌角いわかどほどの人影もなし。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その石磴いしだんをおりて村の方へ歩いて往くと、牛をいた老人としよりが来る、その老人としよりに、今、水神様すいじんさまのお告げがあったが、今晩、大水おおみずが出るから、河原へしてある稲は
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
麻布の松は、くらがりざかの上にかくれて、まだ見えない。道の右手に、寺の石磴いしだんがすっくと高い。心なしか、この磴が金沢の松のあがり口にそっくり似ている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)