癲狂院てんきょういん)” の例文
そのために伝右衛門は発狂して松沢村の癲狂院てんきょういんに送られてしまった。それにも拘わらず、僕は銀座裏のカフェで浦部俊子に会ったんだ。
いい気持に寝ころがって、二年間も制作から離れていられる所があったら! 仮令たとえそれが癲狂院てんきょういんであっても、私は行かないであろうか?
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この作品はやがてチェーホフの『六号室』などによってうけつがれる一系の癲狂院てんきょういん小説の、きららかな源泉をなすものであった。
牢獄か癲狂院てんきょういんか、どの道我が子は助からないのだ。彼の頭には陰惨な人生の両極がまざまざと描かれた。暗い考えが夜のように彼の心をとざして来る。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
最後にあの令嬢のくオルガンが、まるでこの癲狂院てんきょういんの建物のつく吐息といきのように、時々廊下の向うから聞えて来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうでなければ、人々は口々に饒舌しゃべっていても世界は癲狂院てんきょういんかバベルの塔のようなものである。
言語と道具 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何やらこう尻尾しっぽはねも失せたような生活、何やらこうたわけきった代物しろものだが、さりとて出て行きも逃げ出しもできないところは、癲狂院てんきょういんか監獄へぶち込まれたのにそっくりだ!
その時博士の諸友これを発狂の所作として申告した内に癲狂院てんきょういんを司るシムモンス博士あり。
ロバート・シューマン(Robert Schumann)は、一八一〇年六月ドイツのサクソニーの本屋の子として生まれ、一八五六年七月、癲狂院てんきょういん(精神病院)の一室で死んだ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ビセートルの癲狂院てんきょういんにでも入れられたかも知れませんよ。あなたが死なれたら、私はどうなると思います? そしてあなたの娘さんは! 果物屋くだものやの上さんは訳がわからなくなるでしょう。
ダルドルフの癲狂院てんきょういんに入れんとせしに、泣き叫びてかず、のちにはかの襁褓一つを身につけて、幾度かいだしては見、見ては欷歔ききょす。余が病牀をば離れねど、これさえ心ありてにはあらずと見ゆ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の歌曲リードは野獣のうなり声に似ており、彼の交響曲シンフォニー癲狂院てんきょういんから発する趣きがあり、彼の芸術はヒステリー的であり、彼の痙攣けいれん的な和声ハーモニーは心情の乾燥と思想の空粗とをごまかそうとしたものである
同地の癲狂院てんきょういんに収容された。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼は私と同じ都に生れ、同じ様に病弱で、身を持ち崩し、人に嫌われ、悩み、果は、(之だけは違うが)癲狂院てんきょういんで死んで行った。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
最後にどこかの癲狂院てんきょういんで、絶命する事になるんだそうだ。ついてはその癲狂院の生活を描写したいんだが、生憎あいにく初子さんはまだそう云う所へ行って見た事がない。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もうそろそろ出かけなくっちゃ。——じゃ癲狂院てんきょういん行きの一件は、何分よろしく取計らってくれ給え。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)