かさぶた)” の例文
それだから風呂ふろに入つた時などに、ひそかにそのかさぶたを除いてみると、その下は依然としてただれて居つて深いみぞのやうになつてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで二人はねだいを並べて寝た。羅は渓の水で洗ってから瘡の痛みがなくなっていたが、ひと眠りして創へ手をやってみると、もう乾いてかさぶたができていた。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
爪のかさぶたを掻き落すことたとへば庖丁の鯉またはこれより鱗大なる魚の鱗をかきおとすごとくなりき 八二—八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
永く湯をつかはなかつた爲めに足の裏から踵にかけて、かさぶたのやうにあかがたまつてゐた。肉が落ちたので、手足の關節部は、骨瘤のやうに氣味惡く眼立つてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
祠堂金しどうきんも納めてある筈、僅ばかりでも折々の附け届も怠らなかったつもりだのに、是はまた如何な事! 何時いつ掃除した事やら、台石は一杯に青苔あおごけが蒸して石塔も白いかさぶたのような物におおわれ
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
昔時むかしを繰返して新しく言葉をついやしたって何になろうか、ハハハハ、笑ってしまうに越したことは無い。云わば恋の創痕きずあとかさぶたが時節到来してはがれたのだ。ハハハハ、大分いい工合ぐあいに酒もまわった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小児——彼は何という驚くべき芸術家だろう。彼の心には習慣のかさぶたが固着していない。その心は痛々しい程にむき出しで鋭敏だ。私達は物を見るところに物に捕われる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あゝ、乾けるかさぶたわがはだの色を奪ひ、またわが肉乏しとも、汝これに心をとめず 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
癒えたがかさぶたを結んだところが瘢痕ばんこん組織で補はれたと見えてそこにあとが残つた。その小さい男根図の痕は、小学校を出て中学校に入り中学校を出て高等学校に入るころまでは残つてゐた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)