琺瑯ほうろう)” の例文
やがて、看護婦は、ガーゼで覆われた、長径二しゃくばかりの、楕円形の琺瑯ほうろう鉄器製の盆を捧げてはいって来た。それを見た患者は
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
名前は玉質焼といって、全然気分のかわった淡い水彩画のような感じのもので、を卵色の琺瑯ほうろうで焼き付けて、模様を白く残したようなものだった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
人形は薔薇色ばらいろしゃの着物を着、頭には金色の麦の穂をつけ、本物の髪毛がついていて、目には琺瑯ほうろうが入れてあった。
西洋料理の道具といえば先日の御意見で台所はことごとく西洋鍋ばかりに致しましたが白い琺瑯ほうろうを敷いてある西洋鍋のうちで底の方の琺瑯がポツポツとはがれるのが出来ました。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼はそれを卓子テーブル琺瑯ほうろう板の上に押さえて、ペン・ナイフで端から細かく刻む仕事に没頭していた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
大きな琺瑯ほうろう塗りのベッドがあり、ピカピカ光るメスの類が並んだガラス戸棚が見え、一方の隅には複雑な電気装置があり、試験管やフラスコなどのゴタゴタ並んだ大テーブル
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
行ったのは、もうおひるをまわっていたが、勝手口のところには、うに冷め切った味噌汁おみおつけを入れた琺瑯ほうろうびんと一緒に、朝食と昼食の二食分が、手もつけられずに置かれてあるのを見
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして今度は、琺瑯ほうろうや、銀製の果実くだもの庖丁などの入っている函には手も触れずに
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
荒砥あらとのような急湍きゅうたんも透徹して、水底の石は眼玉のようなのもあり、松脂やにかたまったのも沈み、琺瑯ほうろう質に光るのもある、蝶は、水を見ないで石のみを見た、石を見ないで黄羽の美しい我影を見た
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
裏には、薄く琺瑯ほうろうのかかった糸底の中に茶がかった絵具で署名がしてあった。先の太く切れた絵具筆で無雑作らしく書いたM・Sという二つの頭文字と、上に一五四〇年という年代が記入してある。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
桐の木に彫刻をして、胡粉ごふんを塗り、塗料を塗り、毛髪は一本一本植えつけ、歯は本当の琺瑯ほうろう義歯を入れるという、この生人形というものは、いつの世、何人なんびとが発明したのであろう。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして幾十分かの後腹部内臓の全部が、琺瑯ほうろう鉄器製の大盆の上に取り出されたときには、そばにあったピンセットを取り上げて、臓器の一部分に、もっともらしく触れて見るだけの勇気が出ました。
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)