狗児いぬころ)” の例文
旧字:狗兒
ツイ其処に生後まだ一ヵ月もたぬ、むくむくとふとった、赤ちゃけた狗児いぬころが、小指程の尻尾しっぽを千切れそうに掉立ふりたって、此方こちら瞻上みあげている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
成斎はその節用集を抱へ込んで、狗児いぬころのやうに鎮守ちんじゆの社殿の下に潜り込んだ。そして節用集を読み覚えると、その覚えた個所かしよだけは紙を引拗ひきちぎつて食べた。
向うに狗児いぬころかげも、早や見えぬ。四辺あたりに誰も居ないのを、一息のもとに見渡して、我を笑うと心着いた時、咄嗟とっさに渋面を造って、身をじるように振向くと……
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にかく市郎の身につつがなかったのは何よりの幸福さいわいであったと、お葉は安堵の胸を撫下なでおろすと同時に、我が眼前めのまえに雪を浴びて、狗児いぬころのようにうずくまっている重太郎を哀れに思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
われらは願はく狗児いぬころ
『二十五絃』を読む (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
多くの学者は研究が厭になると、細君の顔を見てにやりとするか、さもなければ狗児いぬころを連れて散歩に出るものである。桑原氏も欠伸を二つして散歩に出た。
花畑のなかの一軒屋に生れたので、子供の時は狗児いぬころか蝶々かのやうに色々の花の中に転がり廻つて日を送つた。