狐鼠狐鼠こそこそ)” の例文
「どいつも、此奴も、ろくでもねえくずばかり。何だって、俺あ、あんな狐鼠狐鼠こそこそ野郎ときたねえ、血などめ合って、義兄弟になったんだろう」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
従って三五屋という名前は大阪では一廉ひとかど大商人おおあきんどで通っていたが、長崎では詰まらぬ商人あきんど宿に燻ぶっている狐鼠狐鼠こそこそ仲買に過ぎなかった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕も余りそんな所へ出るはいやであったから家に居る。民子は狐鼠狐鼠こそこそと僕の所へ這入ってきて、小声で、私は内に居るのが一番面白いわと云ってニッコリ笑う。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼は人に見られるのを恐れるように、なるたけ顔を隠してず牡丹餅を食った。それから汁粉を食った。銭を払って、前垂で口を拭いて、逃げるように狐鼠狐鼠こそこそと出て行った。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
只今たゞいま」と可愛い声してあがり来れるだ十一二の美しき小女せうぢよ、只ならぬ其場の様子に、お六と花吉との顔ばし黙つて見較みくらべつ、狭き梯子はしごギシつかせて、狐鼠狐鼠こそこそ低き二階へ逃げ行けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そんなら俺も彼奴あいつの事を素破拔すつぱぬいてやらう、と氣が立つて來て、卑怯な奴等だ、何も然う狐鼠狐鼠こそこそ相談せずと、退社しろなら退社しろとはつきり云つたら可いぢやないか、と自暴糞やけくそな考へを起したが
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「おれは今まで自分の裁判にあやまちは無いと信じていたが、今度ばかりは危く仕損じるところであった。我来也は外にいる。この獄屋につないであるのは全く人違いだ。多寡が狐鼠狐鼠こそこそどろぼうだから、杖罪で放逐してしまえ。」
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)