くるい)” の例文
彼は人目に触れやすい社交場で、同じ所作しょさをなお二三度くり返した後、発作のために精神にくるいの出る危険な人という評判を一般に博し得た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奴さんは己の神経のくるいで奇怪な幻をえがいたことに気がかないから、びっくりして眼をみはったのだ、そこで奴さんは、その晩のことは己の邪推であったと思うようになったが
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かえって以前よりも一層慶三の気に入るような勤め振り、それは絵本で見る昔の御殿女中がお宿下りの折の役者くるいとて、まさかこれほどではあるまいと思われるような有様を見せるので
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから紫檀したん茶棚ちゃだなが一つ二つ飾ってあったが、いずれもくるいの出そうななまなものばかりであった。しかし御米にはそんな区別はいっこう映らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
訴訟を起してるが、これも吾輩のやったことじゃ、その医学士は、しばらく養生しているうちに、神経のくるいもとれて来た、そのうち、あの親父おやじが死んでしまったのだ、それも偶然じゃないのだ、しかし
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
昨夕ゆうべ飲んだ麦酒ビールはこれに比べるとおろかなものだと、代助は頭を敲きながら考えた。幸に、代助はいくら頭が二重になっても、脳の活動にくるいを受けた事がなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)