牢乎ろうこ)” の例文
決してんな浮いた泡のような空想ではなかったので、牢乎ろうことして抜くべからざる多年の根強い根柢があったのだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もとより、現実の家の制度の牢乎ろうこたる歴史の上では、本能も、人情も、ぬきがたい人間の実相の如く見えている。
戦争論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そしてこの矛盾せる、しかれども牢乎ろうことして抜きがたき要求は、キリストの出現によって完全にたさるるに至ったのである。それまでは暗中の光明探索である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかれどもその鎖国の禁は、牢乎ろうことして抜くべからず、かねて通商の公許を得たる支那、和蘭オランダさえ、その通商に供する支那船を十そうに限り、和蘭船を一そうに限るに到れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
という信念を米友に持たせることに於ては牢乎ろうことして動かすべからざるものがあったのですから、米友の取扱いもいっそう和気もあり、やみくもにゆすぶることには及ばない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし仔細に点検して来ると、その鬼神も端倪たんげいすべからざる痛快的逸話の中にも牢乎ろうことして動かすべからざる翁一流の信念、天性の一貫しているところを明白に認める事が出来る。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第一にわたしが言いたかったのは、現今の社会にあらゆる階級を通じて、一つの信念が牢乎ろうことして根を張っており、しかも偽りの科学によって維持されている、ということである。
しかして三つ子の魂百までとも称し、三つ子の時に打ち込んだる魂は、いわゆる習慣は第二の天性であって、牢乎ろうことして抜くべからざるものであるから、教育の必要は最もこの際に在る。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と有るのを見ても、因襲既に久しきがため、この風の牢乎ろうことして抜き難かったことを知ることが出来よう。かくて、後年に至って薩摩煙草はかえって天下の名産たるに至ったのである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
うした実証を伴う偏見ほど牢乎ろうこたるものはない。実際エビルは、彼女の現実の情事は常に正義であり、夫の想像された情事は常に不正であると固く信じていた。哀れなのはギラ・コシサンである。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その妻が女学校で行灯袴あんどんばかま穿いて牢乎ろうこたる個性をきたえ上げて、束髪姿で乗り込んでくるんだから、とても夫の思う通りになる訳がない。また夫の思い通りになるような妻なら妻じゃない人形だからね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その学説については牢乎ろうこたる確信を持っておった事は明らかであるから、もし夫の生前において未だ広く容れられなかった学説が、その妻たる自分の尽力に依って、夫の死後に至って認められ
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)