火見櫓ひのみやぐら)” の例文
これを例するに浅野あさのセメント会社の工場と新大橋しんおおはしむこうに残る古い火見櫓ひのみやぐらの如き、あるいは浅草蔵前あさくさくらまえの電燈会社と駒形堂こまがたどうの如き、国技館こくぎかん回向院えこういんの如き
深川ふかがわ方面を描いたものは武家、町家いちめんの火で、煙につつまれた火見櫓ひのみやぐらも物すごい。目もくらむばかりだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
対岸はお米蔵、屏風びょうぶを立てならべたようないらかが起伏しているなかに、火見櫓ひのみやぐらなどが空明りに浮いて見える。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ブラリブラリと歩き出しながら町角を右へ曲ると、急に悪夢から醒めたように火見櫓ひのみやぐらの方向へ急いだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一年あまり風雨にさらされているので、白亜の壁はところどころ禿げ落ちて鼠色になり、ぜんたいは一見不恰好な灯台か、ふるぼけた火見櫓ひのみやぐらとも見えた。私はそれを感慨ふかく見上げた。
蜘蛛 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
五千石の格式だけに土塀を取廻した屋構え大きく、門をはいった横のところには火見櫓ひのみやぐらが建っていた。うまやがあるのだろう、すぐ近くに馬のいななきが聞えた。彼はちょっと考えて、脇玄関へ訪れた。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高い火見櫓ひのみやぐら、並んだ軒、深い暖簾のれんから、いたるところの河岸かしに連なり続く土蔵の壁まで——そこからまとまって来る色彩の黒と白との調和も江戸らしかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これを例するに浅野あさのセメント会社の工場と新大橋しんおほはしむかうに残る古い火見櫓ひのみやぐらの如き、或は浅草蔵前あさくさくらまへの電燈会社と駒形堂こまがただうの如き、国技館こくぎかん回向院ゑかうゐんの如き、或は橋場はしば瓦斯がすタンクと真崎稲荷まつさきいなりの老樹の如き
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
町続きで十分ぐらいしか電車に乗らないうちに、筥崎はこざき神社前という処に着いた。鳥居前に立ってみると左手の二三町向うに火見櫓ひのみやぐらが見える。田舎の警察というものは大抵火見櫓の下に在るものだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
広場の一角に配置されてある大名屋敷、向こうの町の空に高い火見櫓ひのみやぐらまでがその位置から望まれる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ごみごみしたそれらの町家まちやつきる処、備前橋びぜんばしの方へ出るとおりとの四辻よつつじに遠く本願寺の高い土塀と消防の火見櫓ひのみやぐらが見えるが、しかし本堂の屋根は建込んだ町家の屋根にさえぎられてかえって目に這入はいらない。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「大橋の火見櫓ひのみやぐらだけは、それでも変らずに有りますネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)