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滊船
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きせん
『はてさて、
妙だぞ、あれは
矢ツ
張滊船だわい、して
見ると
今月の
航海表に
錯誤があつたのかしらん。』と
言ひつゝ、
仰いで
星影淡き
大空を
眺めたが
『つい
昔話の
面白さに
申遲れたが、
實は
早急なのですよ、
今夜十一
時半の
滊船で
日本へ
皈る
一方なんです。』
其日も
暮れ、
翌日は
來つたが
矢張水や
空なる
大洋の
面には、
一點の
島影もなく、
滊船の
煙も
見えぬのである。