満悦まんえつ)” の例文
旧字:滿悦
映画はスクリーンの上に、羞らいを捨てて、あやしく躍りだした。大勢の会員たちが自然に発する気味のわるい満悦まんえつの声が、ひどく耳ざわりだった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
父の顔を見母の顔を見姉の顔を見、煮豆佃煮つくだにのごちそうに満悦まんえつして、腹の底を傾けての笑い、ありたけの声を出しての叫び、この人のためにだれもかれも、すべてのことを忘れさせられる。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その時彼は痴川殺害の事実については実はほとんど考えてはいなかった。ただ彼はこの手紙を受け取った痴川の狂暴な混乱を思い浮べるだけで満悦まんえつを感じていた。数日が流れた。無論返書は来なかった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ともあれ信雄は満悦まんえつして清洲へ帰った。匹夫ひっぷがほくほくした時のようなていであった。が、小心な彼はその姿にまで、終始うしろめたいようなかげを持っていた。秀吉の眼を極度にはばかっていたものらしい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした手紙の中に、ヘルンの大得意な満悦まんえつさが現われている。
校長はお君の拍手に満悦まんえつしたようだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼は恐らく可憐かれんな愛人と抱きあったまま満悦まんえつうち瞑目めいもくしたことでしょう。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひとたまりもなく倒れる男に馬乗りとなって、苦悶のためにのたうつ男の首をしめて地面へぐいぐいおしつけた。きしむような満悦まんえつの笑いに胸をはずませ、無我ママ中のていで顔面をなぐり、つねった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)