浦曲うらわ)” の例文
常に気をつけている岡崎の船関で、今夜、時ならぬ警鼓けいこがひびき、浦曲うらわや鳴門の山にかけて、しきりと、提灯の点滅するのを海から眺めたふたりは
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼にここから見た打出うちでの浜の光景が、畳と襖一面にぶち抜いて、さざなみや志賀の浦曲うらわの水がお銀様の脇息きょうそくの下まで、ひたひたと打寄せて来たのでありました。
此れは逗子づし浦曲うらわに住む漁師にて候、吾れいまだ天長節外務大臣の夜会てふものを見ず候ほどに
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ヴィナスは海のあわから生れて、西風に導かれ、波のまにまに、サイプラスの島の浦曲うらわに漂着した。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
斯うした浦曲うらわで茶の師匠と相食客をするのも面白くなくはないが、多少でも窮屈の思いをするのは嫌だ、それに茶の一手でも弁えているとまだ便利だが、どうも新派和歌では始まらない
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
水島みづしま室山むろやまの二戰に勝利を得しより、勢ひ漸く強く、頼朝、義仲の爭ひのひまに山陰、山陽を切り從へ、福原の舊都まで攻上せめのぼりしが、一の谷の一戰に源九郎が爲に脆くも打破られ、須磨の浦曲うらわの潮風に
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
なほしばしかぎろふ浦曲うらわ
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
「ちょうどこの船が、沖から浦曲うらわを見るころには、お別れにみえた、三卿のかたがたも、京都へお帰りある時刻」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さざなみや志賀の浦曲うらわの、花も、もみじも、月も、雪も、隅々まで心得て候、あわれ一杯の般若湯はんにゃとうと、五十文がほどの鳥目ちょうもくをめぐみたまわり候わば、名所名蹟、故事因縁の来歴まで
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嘘みたいに、空は青く照りかがやき、余波なごりのしぶきもまだ白い浦曲うらわの諸所では、早や荷下ろしが始まっている。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし花おぼろな春の夜でも、ここの黒い柱によりかかって、屋島の浦曲うらわの波音を耳に、うとりうとり居眠りでもしていたら、夢に、平家の人々が語りかけて来るかもしれない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、浦曲うらわと磯松のつづくかぎりにつづき、海上には船手の旗のぼりも望まれる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船隠しの崎も、檀ノ浦の浦曲うらわも、夜の底に無風帯の青ぐろさを抱いたまま暮れ沈んでいる。もし、かりに今夜を平家最後の夜として、ここを落ちるとしたら? ——と考えてみよう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの辺は、山東さんとうきッての難場なんばだと、漁師りょうしですら言っていらあ。見渡すかぎりな浦曲うらわよしあしの茂りほうだい。その間には、江とも沼ともつかぬ大きな水面が、どれほどあるかわかるめえ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに対して、海上の大船団は、生田の川尻から御影みかげの浜へわたって、盲目的に、そのみよしを砂へ乗しあげて来た。白浪の見えるかぎりの浦曲うらわに小さい無数な人馬の影が戦闘をえがき出した。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべてを藍で染めたような海と山と浦曲うらわを指さし
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)