泡沫しぶき)” の例文
船と船とが行き合ふと、緩かな汽笛が響いて、よどんだ水がうねりとうねりの間でせせ笑ふやうに白い泡沫しぶきを立てたりした。
修道院の秋 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
プーッと吹き出す血の泡沫しぶきが、松明の光でにじのように見えた。と、もうその時には葉之助は、ピタリ中段に付けていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
泡沫しぶきが飛んで、傾いたふなばたへ、ぞろりとかかって、さらさらと乱れたのは、一束ひとたばねの女の黒髪、二巻ばかり杭に巻いたが、下には何が居るか、泥で分らぬ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霰弾さんだんの、赤い泡沫しぶきが、ひもすがら
筏船は駸々しんしんと走って来る。歌のような帆鳴りの音がする。泡沫しぶきがパッパッと船首へさきから立つ。船尾ともから一筋水脈みおが引かれ、月に照らされて縞のように見える。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四散する泡沫しぶき灯火に光った。もちろんほんの一瞬間であった。すぐ煙りのように消えてしまった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
滝の幅は五間もあろうか、轟々ごうごうという高い音は、空洞一杯に反響した。滝には縞が出来ていた。夜光虫の放つ光線が、水勢へ陰影かげをつけるからであった。泡沫しぶきが水路を煙らせた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「無礼者!」と叫ぶと同時に、真っ先に進んだ川添三弥は、刀を抜いてさっと斬った。パッと散る血の泡沫しぶき、首をねられた老人は、薄雪の積もった峠道へ、バッタリ死体しがいを転がした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日光が横から射しているので、滝の泡沫しぶきに虹がかかり、何んとも云えず美しい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二つの浮き岩は唸りながら、互いに相手を憎むかのように、力任せに衝突ぶつかり合っていた。飛び散る泡沫しぶきは霧を作り、その霧のおもてへ虹が立ち、その虹の端の一方は、陸地くがち断崖がけに懸かっていた。
そうして互いに衝突ぶつかり合い、恐ろしい泡沫しぶきを揚げている。その泡沫は雪のように四辺あたりの海を濛々と曇らせ、行く手をすっかり蔽い隠している。そうして互いに衝突ぶつかり合う音が雷のように響き渡る。
肩の弾力に刎ね上げられ、煙りのような泡沫しぶきが上がった。彼女の裸体はすだれを懸けた。それは硝子ガラスの簾であった。一時に裸体はつやを持った。灯明の灯が吸い寄せられた。テラテラと全身がひらめいた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雨と泡沫しぶきで彼女の体は、漬けたように濡れてしまった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)