汲々きふ/\)” の例文
こひねがはくば、満天下の妙齢女子、卿等けいら務めて美人たれ。其意そのこゝろの美をいふにあらず、肉と皮との美ならむことを、熱心に、忠実に、汲々きふ/\として勤めて時のなほ足らざるをうらみとせよ。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昔しは儒生実地に用なきの空論にのみ汲々きふ/\たりしかば人をして六経は争論の資のみとあざけらしめたりき。ねがはくは基督教会を以て空論の巣となして識者をして冷笑せしむるなかれ。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
さうした私の悪意をきはめた陰口と見え透いたお世辞とによつて彼は転校者として肩身の狭い思ひから巧に舎内の獰猛組だうまうぐみに親交を求め、すみやかに己が位置を築くことに汲々きふ/\としてゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
始のほどは高利かうりの金を貸し付けて暴利ぼうりむさぼり、作事こしらへごとかまへて他をおとしいれ、出ては訴訟沙汰そしようさたツては俗事談判ぞくじだんはんゆる間も無き中に立ツて、ぐわんとして、たゞ其の懐中くわいちうこやすことのみ汲々きふ/\としてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
然れども元よりこの種の理想に於て優劣をかくするの愚を、われ学ぶ者ならず、若しれ明治の想実両大家が遊廓内の理想上の豪傑を画くに汲々きふ/\し、我が文学をして再び元禄の昔に返らしむる事あらば
しかれども方今の人心は其外界の進歩に殆んど反比例して、其撲茂、忠愛、天真の如き品格を消磨して、唯物質的の快楽を遂ぐるに、汲々きふ/\たるは、おほはんとして掩ひ得べからざるの事実に非ずや