水掻みずかき)” の例文
「口へ出して言わぬばかり、人間も、赤沼の三郎もかわりはないでしゅ。翁様——処ででしゅ、この吸盤すいつき用意の水掻みずかきで、お尻をそっでようものと……」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ、元気なのは水鳥で、やかましくカッカッと啼き立てながら、水掻みずかきで水をね飛ばしていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その産はきわめて難産なりしが、或る者のいうには、馬槽うまふねに水をたたえその中にてまば安く産まるべしとのことにて、これを試みたれば果してその通りなりき。その子は手に水掻みずかきあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
虎杖いたどり人より高く、ふきも人より高し。おりおり川鳥ききと鳴きて、水面をかすむ。雀を二倍したる位のおおいさにて、羽の色黒し。この鳥陸上に食を得る能わず。さればとて、水掻みずかきなければ、水にも浮べず。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
それから何だって、山ン中だというに、おかしいじゃあねえか、水掻みずかきのある牛が居るの、種々いろいろなことをいって、まだ昔から誰も入ったことがないそうで
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト大様にながめて、出刃を逆手さかてに、面倒臭い、一度に間に合わしょう、と狙って、ずるりと後脚をもたげる、藻掻もがいた形の、水掻みずかきの中に、くうつかんだ爪がある。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
河童かっぱ、猿、狼、熊、狐のたぐいより、昔々の歌謡に至るまで、話題すべて一百十九。附馬牛つくもうしの山男、閉伊川のふちの河童、恐しき息をき、怪しき水掻みずかきの音を立てて、紙上を抜け出で、眼前にあらわるる。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と河童は水掻みずかきのある片手で、鼻の下を、べろべろとこすっていった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)