殺気さっき)” の例文
すごいものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われる。そうして、ことごとく切先きっさきへ集まって、殺気さっきを一点にめている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
温熱おんねつのような殺気さっき弾琴だんきんに吹きはらわれて、ただ、ぼうぜんとふしぎそうに耳をすます軍兵の眼ばかりが光り合う。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなに厚顔な夫人でも、少しは狼狽ろうばいするだろうと予期しながら。が、夫人の顔は、やゝ殺気さっきを帯びているものゝ、その整った顔の筋肉一つさえ動かさなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「どうも、東京では近来よほど殺気さっき立っている。新聞の調子を見てもわかるが、どこかこういつもに違ってまじめなところがある。いよいよ戦端せんたんが開けるかもしれない」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
棒頭は殺気さっきだった。誰かが向うでなぐられた。ボクン! 直接じかに肉が打たれる音がした。
人を殺す犬 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
午後三時半、あますところわずかに三十分、警戒陣はものものしく殺気さっきだってきました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この殺気さっきの場面に、恋の一こと——それは、降り積む雪に熱湯を注いだも同然で、一瞬、ほのぼのとした煙を上げて、この場の緊張きんちょうをやわらげ、冷気に一抹のあたたかみを与える効果はあったが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いままでの、意地いじ興味きょうみなど超越ちょうえつして、ある運命うんめいとものすごい殺気さっきをはらみかけた番外ばんがいばん試合じあいは、こうしてまさにその火蓋ひぶたを切られようとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米は小六の憮然ぶぜんとしている姿を見て、それを時々酒気を帯びて帰って来る、どこかに殺気さっきを含んだ、しかも何がしゃくさわるんだか訳が分らないでいてはなはだ不平らしい小六と比較すると
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なにか殺気さっきだっているが、伊那丸いなまるさまといいほかの者といい、ここへくれば、なんとかわれわれに手はずをなさるであろうから、どうもそうは考えられんな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)