檳榔樹びんろうじゅ)” の例文
棕梠しゅろ、芭蕉、椰子樹やしじゅ檳榔樹びんろうじゅ菩提樹ぼだいじゅが重なり合った中に白い卓子テーブル籐椅子とういすが散在している。東京の中央とは思えない静けさである。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひょろ高い檳榔樹びんろうじゅ木立の下の敷石路をギラ・コシサンは、忍び足で灯の無い家に近附いた。妻に近附くのが、唯何となく怖かったのである。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
檸檬レモン檳榔樹びんろうじゅの実・汁を含んだ蕃爪樹ばんそうじゅ・膚の白い巨大なココナッツ・椰子玉菜・多液性のマンゴステン・土人はこれで身代を
同じ檳榔樹びんろうじゅの葉を壁代りに、椰子やしの葉骨で屋根をいた土民の家であっても、巫女のそれは屹立するように破風が高く、がっているのである。
蒐集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
私の見つけた果樹園には椰子やし檳榔樹びんろうじゅやパインアップルやバナナの大木が枝もたわわに半ば熟した果実このみをつけて地に垂れ下がっているのであって
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庄太郎は仕方なしに、持っていた細い檳榔樹びんろうじゅ洋杖ステッキで、豚の鼻頭はなづらった。豚はぐうと云いながら、ころりとかえって、絶壁の下へ落ちて行った。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此方こなたの山三郎は中々待ってなどは居りません、ずん/\玄関口から案内もなくずうっと奥へ通り、粥河圖書の居ります二けん大床おおどこ檳榔樹びんろうじゅの大きな柱の前の処へぴったり坐って、たいを据えました。
飾り道具ではないから短い、柄は六尺二寸の檳榔樹びんろうじゅで、手槍というのに類するだろう、穂は十文字になっていた。——光辰はその槍を受取ると、座を立って上段の端へ進み、重太夫、と呼びかけた。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
椰子、檳榔樹びんろうじゅ、芭蕉、カカオ、ゴムの木、合歓ねむの木、アカシヤなどが、わずかにあちこちに生えているばかりで、その他にははても無い砂の海と砂の小山とがあるばかりです。
という小さな叫び声が私の枕元から聞えたので、ビックリして振り返ってみると、栗色の髪をグルグル巻にした黄色いワンピースの少女、眼の大きい、唇の赤い、鼻の高い、憂鬱な檳榔樹びんろうじゅ色の少女だ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)