かしわ)” の例文
英国やドイツには、寺院の古かしわ、老水松いちのきをことごとく謄記して保護を励行しおるに、わが邦には伐木の励行とは驚くの外なし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
百合と薔薇との彼方には、爪立つて歩む子供の姿さへ隠れんばかりに、羊歯が深く茂つてゐる。羊歯を越えると榛と小さなかしわの木の林になる。
当分はかしわの林が迎えて送る。追々大豆畑が現われる。十勝は豆の国である。旭川平原や札幌深川間の汽車の窓から見る様な水田は、まだ十勝に少ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
記憶に残っているのはつまらぬことばかりだ。だらだら続きの小山には行けども行けども見渡す限りかしわの若木が黄褐色の大きな葉を風にそよがせていた。
四十年前の袋田の瀑 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かしわ、落葉松、ひのきなどの、斧の味を知らぬ大木が幾万本となく繁り合い光を遮っているからである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
淡路島あわじしまでシロトアゲというのもまたそれで、正月にこれを製して神棚や仏壇に、かしわの葉をもって注ぎかける。能登のと穴水あなみず地方では是を人根(ニンゴン?)と謂うそうである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されば駿河湾の暖流しるところに近い浅間神社のほとり、かしわや、さかきや、藪肉桂やぶにっけいなどの常緑濶葉樹かつようじゅが繁茂する暖地から、山頂近くチズゴケやハナゴケなど、寒帯の子供なるこけ類が
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
五月五日にはかしは餅とてかしわの葉に餅を包みて祝ふ事いづこも同じさまなるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
於戯ああ実に慨嘆の至に堪へんではない乎! 高尚なることかしわの木の如き諸君よ、諸君は何故彼如き陋劣漢を地上より埋没せしめんと願はざる乎。彼は鬘を以てその禿頭を瞞着せんとするのである。
風博士 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
はだかの薄青い岩から、緑の波のたぎり飛ぶ白い飛沫しぶきから、黒い広野の微動だにしない夢想から、雷にたれたかしわの樹の悲哀から、凡てそれ等のものから我々の理解し得る人間的のものを作り来り
庭のかしわの木に提灯ちょうちんつるして天の河の下で物語りなどして過ごした外は、唯一夜も家の外には寝ませんでした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
於戯ああ実に慨嘆の至に堪えんではない乎! 高尚なることかしわの木の如き諸君よ、諸君は何故彼如き陋劣漢ろうれつかんを地上より埋没せしめんと願わざる乎。彼は鬘を以てその禿頭を瞞着まんちゃくせんとするのである。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
やゝ黄ばんだならかしわの大木が処々に立つ外は、打開いた一面の高原霜早くして草皆枯れ、彼方あち此方こちひくむらをなすはぎはすがれて、馬の食い残した萩の実が触るとから/\おとを立てる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)