棕櫚箒しゅろぼうき)” の例文
棕櫚箒しゅろぼうきの朽ちたのに、溝泥どぶどろ掻廻かきまわして……また下水の悪い町内でしたからな……そいつを振廻ふりまわわすのが、お流儀でしたな。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は熱い鉄板の上に転がった蝋燭ろうそくのようにせていた。未だ年にすれば沢山たくさんあるはずの黒髪は汚物や血で固められて、捨てられた棕櫚箒しゅろぼうきのようだった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ヒネクレ者で、口が悪く、見たところはごぞんじのとおり、使いふるした棕櫚箒しゅろぼうきに土用干しの古着をひっかけたような姿。のうといったら人を斬るだけの、この丹下左膳。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その上に棕櫚箒しゅろぼうきのように伸び放題にした胡麻鹽ごましお頭の痩せた黒い顔が乗っている。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒い顔! 中には日本に籍があるのかと怪まれるくらい黒いのがいる。——刈り込まざる髯! 棕櫚箒しゅろぼうききぬたで打ったような髯——この気魄きはく這裏しゃり磅礴ほうはくとしてわだかまり沆瀁こうようとしてみなぎっている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
てまえども身柄、鬼神を信ぜぬと云うもいかがですが、軽忽かるはずみ天窓あたまからあやしくして、さる御令嬢を、ひきがえる、土蜘蛛の変化へんげ同然に心得ましたのは、俗にそれ……棕櫚箒しゅろぼうきが鬼、にもまさった狼狽うろたえ方
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)