松前まつまえ)” の例文
福山すなわち松前まつまえ往時むかしいし城下に暫時ざんじ碇泊ていはくしけるに、北海道にはめずらしくもさすがは旧城下だけありて白壁しらかべづくりの家などに入る。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然れども太平の酔客は、霜天そうてん晨鐘しんしょうに目をさますを欲せず。いて寛政五年露船松前まつまえに来り、我が漂民を護送して通商を請う。幕府これをしりぞく。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
遠山は辞を低うしてそのやしき伺候しこうした種彦をば喜び迎え、昔に変らぬ剰談じょうだんばなしの中にそれとつかず泰平の世は既に過ぎ恐しい黒船は蝦夷えぞ松前まつまえあたりを騒がしている折から
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
海尊仙人が住んでいたという口碑あり、また陸前気仙けせん郡の唐丹とうにの観音堂の下にも、昔常陸坊が松前まつまえから帰りがけにこの地を通って、これは亀井の墓だと別当山伏の成就院じょうじゅいん
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
松前まつまえの国の浦奉行うらぶぎょう中堂金内ちゅうどうこんないとて勇あり胆あり、しかも生れつき実直の中年の武士、るとしの冬、お役目にて松前の浦々を見廻みまわり、夕暮ちかく鮭川さけがわという入海いりうみのほとりにたどりつき
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一般の百姓は若い者も、年老としとったものも、すべて終日囲炉裏いろりに火を焚いて取巻きくつろぎ、声の好いものは声自慢に松前まつまえや、または郷土固有の甚句じんくや、磯節いそぶしなどを歌って、其処に来合せたものにきかせる。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)