)” の例文
小屋の真中の勇ましい希臘ギリシヤの彫刻に手鞄を預けて歯朶子と男のき——いきなり歯朶子は男の頬をびしゃりと叩いた。そして黙ってすまして居た。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
朝、まだ朝霧や紙屑がほの白い横浜はまの町を、二人きで波止場へ飛ばしてゆく四、五台を見る。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなことを言ったっていけません。二頭きの車ですから、馬が一匹じゃ遣り切れません」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
料理屋といっても、家には老母と小女こおんながいるきりなので、お杉はどんなふうに頼み込んだか知らないが、その家を逢いきの場所に借りて、ときどきに旧主人に逢っている。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人きの車は朝夕に出入りて。風月堂の菓子折。肴籠さかなかごなどもて来たる書生体のもの車夫など。門前にひきもきらず。これは篠原子爵の邸なれど。このほどより主はよほどの重体にて。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「白い帆が山影をよこぎって、岸に近づいて来る。三本の帆柱の左右は知らぬ、中なる上に春風しゅんぷうを受けてたなくは、赤だ、赤だクララの舟だ」……舟は油の如くたいらなる海を滑って難なく岸に近づいて来る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)