曳子ひきこ)” の例文
一幅ひとはばの赤いともしが、暗夜をかくしてひらめくなかに、がらくたのうずたかい荷車と、曳子ひきこの黒い姿を従えて立っていたのが、洋燈を持ったまま前へ出て
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例の牛は土手にあがると、のそりのそりと曳子ひきこと一緒に歩いて行った。白の斑点ぶちはまるで雲のように鮮やかだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お茶屋があったからというわけではなかろうが、その隣りに阪東三弥吉という女の踊りの師匠がいた。そのそばに、私の父のくるまをうけもって、ほか曳子ひきこを大勢おいていた俥宿くるまやどがあった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
翻える暖簾のれんに掛け行燈、出たりはいったりする仲居なかい曳子ひきこ、ぞめいて通る素見客ひやかしきゃく、三味線の音色、唄う声、——遊女屋にまじって蔭間茶屋、市川桝之丞、浅尾庄松、かどにこんな名が記されてある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かいくれ分らず、荷車について、ぐるぐる廻ってる、日は暮れる、暗くなる、二三ときもかかったので、間が抜けてるじゃありませんか、と曳子ひきこはぶつぶつ叱言こごとをいう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)