晩蒔おそまき)” の例文
かきの外の畑では、まだ晩蒔おそまきの麦を蒔いて居る。向うの田圃では、ザクリ/\鎌の音をさして晩稲おくてって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今でも何かしようと思う積極的の人は晩蒔おそまきながら京阪へ出て行きますから、自然春日様の棟木むなぎで奈良人形を刻んだりするいざりのようなものばかり居残るのだと申します。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのつもりで邪魔でもあろうけれど折々遊びに来る時は快く上げてくれと、晩蒔おそまきながら、わかるように説明したい……。わたくしは再び路地へ入ってお雪の家の窓に立寄った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ヂュリ (獨語的に)類無たぐひないわがこひが、たぐひないわが憎怨にくしみからうまれるとは! ともらではや見知みしり、うとったときはもう晩蒔おそまき! あさましい因果いんぐわこひにくかたきをば可愛かはゆいとおもはにゃならぬ。
それと同じく西洋の事を知ろうとするには何がさて置き基督キリスト教の何たるかを知って置かねばならぬと、晩蒔おそまきながら心づいた故である。罹災りさいの後わたくしは今だに空しくそれらの書をさがしている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いや、あんなもの。晩蒔おそまきでもこれから新生涯に入るんだ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)