放蕩児ほうとうじ)” の例文
末子ばっしのチンコッきりおじさんが家督をついだ時分には、もうそんな、放蕩児ほうとうじなぞ気にかけていられない世のせわしさだった。
朝夕の寒さに蛼もまた夜遊びに馴れた放蕩児ほうとうじの如く、身にしむ露時雨つゆしぐれのつめたさに、家の内が恋しくなるのであろう。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女たちは少年の心のうつろを見過ごしてただ形の美しさだけをちょうした。逸作は世間態にはまず充分な放蕩児ほうとうじだった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小にしては梅忠なるものが、依託金の包みを切って阿波の大尽なるものを驚かした時のように——放蕩児ほうとうじにとっては、人の珍重がるものを粗末に扱うことに、相当の興味を覚えるものらしい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
放蕩児ほうとうじが金を散じる時の所作しょさはまず大同小異である、幇間たいこもちにきせる羽織が一枚か百枚の差である。
こうなるからは誰ぞ公辺こうへん知人しりびとを頼り内々ないない事情を聞くにくはないとかね芝居町しばいまちなぞではことほか懇意にした遠山金四郎とおやまきんしろうという旗本の放蕩児ほうとうじが、いつか家督をついで左衛門尉景元さえもんのじょうかげもとと名乗り
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
放蕩児ほうとうじの名をおかしても母がその最愛の長女を与えたことを逸作はどんなに徳としたことであろう。わたくしはただ裸子のように世の中のたつきも知らず懐より懐へ乳房を探るようにして移って来た。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この讃美歌は新約路加ルカ伝第十五章第十一節より第三十二節にわたり、放蕩児ほうとうじが金を持ち、親や兄を捨て旅行して遊蕩にふけり、悉皆すっかり費消し尽して悲惨なる目にい、改心するまでをんだもので
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)