撞着どうちやく)” の例文
あらゆる悲喜、あらゆる事業、あらゆる思想、すべて皆な不自然であつた。自由を欲する——唯この一語にすら、かれはあらゆる矛盾と撞着どうちやくとを感じた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
すなは作者さくしや精神せいしんめて脚色きやくしよくしたるもの、しかしてその殺人罪さつじんざいおかすにいたりたるも、じつれ、この錯亂さくらん、この調子てふしはづれ、この撞着どうちやくよりおこりしにあらずんばあらず。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
この果断と云ひ抗抵と云ひ、すべて前提の「物ふるれば縮みて避けんとす我心は臆病なり云々」の文字とあひ撞着どうちやくして并行へいかうするあたはざる者なり。是れ著者の粗忽そこつあらずして何ぞや。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
彼女がつひに精神の破綻はたんを来すに至つた更に大きな原因は何といつてもその猛烈な芸術精進と、私への純真な愛に基く日常生活の営みとの間に起る矛盾撞着どうちやくの悩みであつたであらう。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
撞着どうちやくしてゐるぢやありませんか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
われかつて粋と恋愛との関係を想ひて惑ひし事あり。そは旧作家の画き出せる粋なる者、真の恋愛とは異なる節多ければなり。粋と恋愛とは何処どこかの点に於て相撞着どうちやくするかに思はるゝは非か。
若し又劇外の詩人と劇内の詩人(従来の作者の如きもの)と職を異にして、劇外の詩人は専ら創作に従事し、劇内の詩人は之を舞台に適用するとせば、勢ひ相互の間に撞着どうちやくを免かれざるべし。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
建設すべき事業に於て、相撞着どうちやくするところなき能はず。