掻込かきこ)” の例文
冷えたお茶漬をさらさらと掻込かきこんでしまったが、そのまま床をのべて休む気にもならないで、何やら取りつかれたもののように、膳を前にしてぼんやりと考え込んでいるのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから大急ぎで湯をかして、昨夜ゆうべの残りの冷飯ひやめし掻込かきこんで、これも昨夜のままの泥靴をそのまま穿いて、アルミの弁当箱を詰めた黒い鞄を抱え直し抱え直し、落葉まじりの霜の廃道を
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この村の何某なにがし、秋の末つ方、夕暮の事なるが、落葉を拾いに裏山に上り、岨道そばみち俯向うつむいて掻込かきこみいると、フト目の前に太くおおいなる脚、向脛むこうずねのあたりスクスクと毛の生えたるが、ぬいとあり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕飯の時に母から「お前はもう大きくなったからお松は今年きりで今日家へ帰ったのだよ、正月には年頭に早く来るからね」と云われて自分は平気な風に汁掛飯を音立てて掻込かきこんでいたそうである。
守の家 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いいながら土手に胸をつけて、そでを草に、太脛ふくらはぎのあたりまで、友染ゆうぜん敷乱しきみだして、すらりと片足片褄かたづまを泳がせながら、こううち掻込かきこむようにして、鉛筆ですらすらとその三体さんたいの秘密をしるした。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)