拘攣こうれん)” の例文
りあかめたまぶちに、厳しく拘攣こうれんする唇、またしても濃い睫毛の下よりこぼれでる涙のしずくは流れよどみて日にきらめいた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
發したるは我手中の銃にして、黒く數石を染めたる血にまみれて我前に横れるは我友なり。われは喪心者の如く凝立して、拘攣こうれんせる五指の間にかたく拳銃をつかみたり。
九月十一日は小雨こさめの降る日であった。鎌倉から勝三郎の病がすみやかだと報じて来た。勝久は腰部の拘攣こうれんのために、寝がえりだに出来ず、便所に往くにも、人に抱かれて往っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
形容すべからざる嫉妬の念が、老衰した己の筋肉の間を狂奔して、その拘攣こうれんしてゐた生活力を鞭うち起たしめた。己はたつを排して闖入しようとしたことが二十たびにも及んだだらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
皺だらけの腕をまくってみせて、「まだまだ若いものではしょうむない。毎日私か小言のいい続けどす」まるで何を言っているのか、拘攣こうれんしたように変なところに力を籠めて空談くだを巻いている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
河を渡り地をえらみ、士馬を休息せしめ、げきて動くべきなりと。燕王曰く、兵の事はしんありて退たい無し。勝形成りて而してまた北に渡らば、将士解体せざらんや、公等の見る所は、拘攣こうれんするのみと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「アクーリナ」はその顔をジッと視詰めた、しだいしだいに胸が波だッてきた様子で、唇も拘攣こうれんしだせば、今まで青ざめていた頬もまたほの赤くなりだした……
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)