ねじ)” の例文
僅な松明の灯に照し出される岩肌は、穴の屈曲に従って ねじけたこぶをつけ 波打つひだを重ねる。岩室がぽっかり袋のように広くなったところもある。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
加うるに彼の性質は既にねじけ、剛腹ごうふくで執拗であるから、長き牢獄生活に次第に兇暴になったのは敢て不思議ではない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
風が東から来ればその葉は揃って西を指し、風が北から来れば同じくその葉は一様に南を指す。葉鞘がねじれるので直ぐには原位に復せずそのままになっている。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
神門と拝殿とは諏訪すわの大社ぐらいあるか。御神馬の彫刻はだれの作か。そこには舞殿まいどのがあり絵馬殿えまでんがあり回廊があるか。御神木のねじの木とは何百年ぐらいたっているか。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
花車は手頃の杉の樹をモリ/\/\とねじり切って取直し、満面朱をそゝぎ、掴み殺さんず勢いにて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小枝や笹の葉が汗ばんだ額や首筋を容赦なく引掻き廻すので、蚯蚓腫みみずばれのした痕がひりひり痛む。ねじけくねった栂が出て来ると尾根も幾つかに岐れて、どれもこれも岩骨を剥き出している。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「もうよかろう、婆、そう打擲しては、かえって又八をねじけ者にするぞよ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発想法をねじれさせてきた。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ねじけくねった木がその間に根を張り枝を拡げて、逆茂木さかもぎにも似ているが、それがなければ到底とても登れぬ場所がある。岩壁や木の根には諸所に氷柱つららが下っていた。雨の名残りのしずくが凍ったものであろう。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)