拇指ぼし)” の例文
この鋲を拇指ぼしの腹でグッと麻雀台に刺しこむと鋲の頭の肉が薄いために針が逆につきぬけて拇指ぼしをプスッと刺し貫く筈です。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
左の示指しし拇指ぼしで、作左衛門の首筋をピタリと押えた佐の市、これは圧手おしでと言って、その道ではなかなかやかましいもの。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
松陰は文学者にあらず、しかれどもその文章質実明快、勁健けいけんにして熱情活躍、そのわんと欲する所をう、あたかも拇指ぼしを以て眼睛を突くが如し。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「娘ごを放しておやりなされ! 否と申さば太刀打ち申そう! いかがでござる! いかがでござる!」——で、右手で刀の柄を握り、拇指ぼしで鯉口をグッと切った。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拇指ぼしを鼻の頭に当てがって、はるかに追いかけて来る探偵を指の先で嘲弄ちょうろうし、侮辱してやった。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当地の蕨は太さ拇指ぼしの如く、長さ二尺以上たる物なれば、殊にあじわいあり。故に珍とすべし。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
家内では趣味の高いそして意志の弱い良人おっとを全く無視して振る舞ったその母の最も深い隠れた弱点を、拇指ぼし食指しょくしとのあいだにちゃんと押えて、一歩もひけを取らなかったのも彼女である。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして左足の拇指ぼしが砕けていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
別に特別の発見もなかったが、唯一つ、右の拇指ぼしの腹に針でついたほどの浅い傷跡きずあとがあって、その周囲だけが疣状いぼじょう隆起りゅうきし、すこし赤味が多いのを発見した。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今しがた剩錢つりせんにとつた永樂錢えいらくせんが一枚、右手の食指と拇指ぼしの間に立てゝ、ろくに狙ひも定めずピユウと投げると、手練は恐ろしいもので、身を投げようとする男の横鬢よこびんをハツと打ちます。
それから拇指ぼしで頭部を抑え、しずかに前方へ引き寄せる。右手の匕首をそろそろと宛て、果実の中腹へ傷を入れる。その入れ方にもコツがある。深さ二厘乃至ないし三厘、一回に三条入れなければならない。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「屍体の拇指ぼしの腹に小さい傷が一つありましたようですが」と警部が口を出した「深い彫りの中にある毒薬が傷をとおして簡単に身体へ入り得るだろうかね」と帆村に向っていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今しがた剰銭つりせんにとった永楽銭が一枚、右手の食指しょくし拇指ぼしの間に立てて、ろくに狙いも定めずピュウと投げると、手練は恐ろしいもので、身を投げようとする男の横鬢よこびんをハッと打ちます。