手捜てさぐ)” の例文
旧字:手搜
今日か明日あすに運命が迫っているのに……など思い思い手捜てさぐりをして行くうちに、又一つの階段にぶつかった。螺旋らせん型になっているようだ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一番から十番まで、一寸五分ぐらいから、五六寸のまで、枕に並べた定法の鍼の数を、不自由な眼と手捜てさぐりとでからくも読むと
自分は手捜てさぐりに捜り寄って見たい気がした。けれどもそれほどの度胸がなかった。そのうち彼女の坐っている見当で女帯のれる音がした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やっと手捜てさぐりに拾い出した、きれぎれの印象を書くのであるから、これを事実と云えば、ある意味では、やはり一種の事実であるが、またある意味では
議会の印象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうしてそれがひとりで枕もとの懐中時計を手捜てさぐりしている。その動作が今度は逆に、彼自身ほとんど忘れかけていたさっきの命令を彼に思い出させる。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ジルベールが真先に立って、手捜てさぐりで玄関の鍵穴に合鍵を挿し込んで難なくドアを開け三人が吸い込まれる様に室内へ入った。客間には瓦斯が明々あかあかともっていた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
火の見台で兄弟や奉公人の大勢が、話し合ふ声のするのをたよりに、私は暗い二階を手捜てさぐりで通つて火の見台へ出ました。火の色には赤と黄と青が交つて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼らはあたりが暗いので、時々両側の冷たい壁を手捜てさぐりながら、静に片足ずつ階段を降りて行った。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
この最終の自筆はシドロモドロでづらいが、手捜てさぐりにしては形も整って七行に書かれている。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私はやっと落着いて、胸の動悸をしずめて真闇まっくらになったトンネルを手捜てさぐりで歩き出した。どこへ行くかわからないまま……。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「娘は暗いところで、手捜てさぐりで解いたので、たぶん間違ったのでしょう。娘が解きたいのは、娘と又六と結んだのでした」
こう思って私は過去の旅行カバンの中から手捜てさぐりに色々なものを取り出して並べて見ている。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は割り切れない不思議な出来事の数々を考え考え暗闇くらやみの中を二三町ほど手捜てさぐりに歩いて行った。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
街々からきりいて、長屋もドブ板も、生け垣も、妙に物々しく見える本郷の一角、開けておいたらしい裏木戸を押して、やや広い庭へ入ると、霧でぼかされた土蔵の壁を手捜てさぐりに
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)