愴惶そうこう)” の例文
そうしてそう答えたのにホッと安心した一息をもらして、漢書の金を受け取ると、またその鋳物をふところにして愴惶そうこうと店を出た。
そして、咄嗟とっさの逆転に何が何やら判らず、ひたすら狼狽しきっている熊城等を追い立てて、伸子の身体を愴惶そうこうと運び出させてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
最初の一撃にしくじった妖怪の怒りに燃えた貪食どんしょく的な顔が大きく迫ってきた。悟浄は強く水をって、泥煙を立てるとともに、愴惶そうこうと洞穴を逃れ出た。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
またも湧き起る爆笑と、続いて起るゲラゲラ笑いとを、華やかに渦巻くジャズの旋律と一緒にフロックの背中に受け流しながら、愴惶そうこうとして階段を駈け降りた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし広大無辺の曠野にはげきとして声なく、岩上の文字は『沈黙』というのであった。彼はおののき震え、おもてをそむけ、愴惶そうこうとして遠く逃げ去って、再び帰って来なかった
酔い伏していた主膳は、その迎えを受けるや愴惶そうこうとして、その乗物に乗って本邸へ帰ってしまいました。それでこの古屋敷は、主人を失って全く静寂に帰してしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして三時間後には愴惶そうこうとして抜錨ばつびょうし北極海へ取って返した。どうだ、面白い話ではないか
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
小侍は、愴惶そうこうとして、脇玄関から門の外へ駈けて行った。その様子では、たった今の事らしいのである。多門伝八郎は、自分の前にある折箱おりばこ忌々いまいましげに横のほうへ押しやった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愴惶そうこうとして往年の恋の通い路、———例の石崖いしがけの下へ走って行った。
直胤は愴惶そうこうと退出した。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
近習きんじゅうが走り出ると、すぐ老中の秋元但馬守が、愴惶そうこうとして、そこへ来て平伏する。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お銀様は愴惶そうこうとしてこの部屋を立って行こうとした時に、竜之助がはじめて
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
右預金のほとんど全額を引出し、愴惶そうこうたる態度で立去りたる旨判明、なお市外十軒屋に居住しおりし同人妻ハル(四十七)も家財を遺棄し、旅装を整え、相携あいたずさえて行方をくらましたる形跡ある旨
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
調査が終ると、三人は愴惶そうこうに石棺の蓋を閉じて、この圧し狂わさんばかりの、鬼気からのがれていった。そして、道々法水は、幾つかの発見を綜合整理して、それを、鎖の輪のようにつなげていった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
愴惶そうこうとして、郭図は冀州城きしゅうじょうにのぼり、袁紹に謁してこう忠言した。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)