-
トップ
>
-
恐気
>
-
おそれげ
恐気も無く、一分時の前は炎のごとく
真紅に狂ったのが、早や紫色に変って、床に氷ついて、
飜った腹の青い
守宮を
摘んで、ぶらりと提げて、鼻紙を取って、薬瓶と一所に
「
汝、業畜生、」と
激昂の余り三度目の声は
皺嗄れて、滅多打に
振被った、小手の下へ、
恐気もなく玉の
顔、夜風に乱るる洗髪の島田を
衝と入れて、敵と
身体の擦合うばかり
麗かなる空をば
一群の
鳩輪をつくりて舞うが、姉上とわれと
対いあえるに
馴れて、
恐気なく、
此方の軒、
彼方の屋根に
颯と
下しては翼を休めて、
廂にも居たり。物干場の棹にも居たり。棟にも居たり。
恐気もなく言放てる、片頬に
微笑を含みたり。