忍入しのびい)” の例文
一体、この賊はどこから忍入しのびいり、どこから逃出したのであろう。先ず、この家には普通に人の出入する箇所が三つあった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日本でも何とか云ふ男が文部省の去年の展覧会の絵に墨を塗つたが、巴里パリイでも此間このあひだある二三の画家の催して居る小展覧会へ夜間に忍入しのびいつてある婦人の肖像を抹殺した者がある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
突然午後の四時頃半間はんまな時間を計って、わざと音せぬように格子戸を明けながら家の様子を窺うと下座敷には老婢も誰もいないので、慶三は見知らぬ他人の家へでも忍入しのびいるように
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
佐助は春琴の苦吟くぎんする声に驚き眼覚めて次の間よりけ、急ぎ燈火を点じて見れば、何者か雨戸をじ開け春琴がふしど戸に忍入しのびいりしに、早くも佐助が起き出でたるけはいを察し
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其の功と云うはひとすぐれた事があるとか、あるいは屋敷に狼藉でも忍入しのびいった時に取押えたとか何かなければとてもいかんが、如何に伯父甥の間柄でも、伯父に頼んで無理にあゝしてくれ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのすきに、何者かが忍入しのびいって、大金を持去ったものに相違ない。それも、既に給料袋に入れられた分や、こまかい紙幣には手もつけないで、支那鞄の中の二十円札と十円札の束けを持去ったのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
盗賊は古井戸のうしろの黒板塀から邸内に忍入しのびいったものと判明した。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)