うす)” の例文
新一は母親の声を聞きながら手にした短刀の刃さきに眼をやった。血とも脂とも判らないうす赤いねっとりしたものが一めんに附着していた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
白木の軒下にうす汚い僧侶が首を吊っていた。米は一目見るなり立ちすくんだ。それは前日戸外へ放り出した叔父であった。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところどころ雨雲の切れた黎明よあけの空に、うすい星の光があった。主翁はんと云っても黎明であると思って嬉しかった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其処には切灯台のうす紅いがほっかりと青い畳の上を照らしていたが、その灯の光に十五六に見える細長い顔をしたわらべの銚子を持った姿をうつしだしていた。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二十七八に見える面長おもながな色のくっきり白い女であった。黒い筋の細かい髪を目だたないような洋髪にして、うす黄ろな地に唐草からくさ模様のある質実じみ羽織はおりているが、どこかに侵されぬ気品があった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)