徒労とろう)” の例文
旧字:徒勞
かつまたこの代赭色の海を青い海に変えようとするのは所詮しょせん徒労とろうおわるだけである。それよりも代赭色の海のなぎさに美しい貝を発見しよう。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私を此のような破目はめに追いこんだ何物かに、私は烈しい怒りを感じた。突然するどい哀感が、胸に湧き上った。何もかも、徒労とろうではないか。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
『恋は、いくさではないはずです。そんなお考えは持たぬがよい。それがしの気持が徒労とろうになる。——又、そこもとの厳父げんぷ、越前守殿の死もむだになる』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この島へも、ドイツ側は上陸して、なるべく人目にたたないように城塞へ入り込み、いろいろ調べもしたが、ついに宝探しは徒労とろうに終ったんだそうだ。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
清三は田舎の小学校の小さなオルガンで学んだ研究が、なんの役にもたたなかったことをやがて知った。一生懸命で集めた歌曲の譜もまったく徒労とろうぞくしたのである。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
これまたむを得ざる次第しだいなれども、かくに明治年間にこの文字を記して二氏を論評したる者ありといえば、またもって後世士人の風を維持いじすることもあらんか、拙筆せっぴつまた徒労とろうにあらざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「無用無用。何で来たか知らぬが取次はできぬ。おそらくはまた信長どのの使いで、説客に見えたのであろう。度々の徒労とろう、むだなことだ、立ち帰れッ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊那丸よ——おまえのいまのぞんでいることは無益むえきであるぞ、徒労とろうであるぞ、幻滅げんめつをもとめているにすぎないぞよ、そして、そんなことをしているまに、留守るす小太郎山こたろうざんとりでは、徳川家康とくがわいえやすにおそわれて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さすれば、伊丹城へ使いを向けても、徒労とろうというか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)