往時おうじ)” の例文
上野寛永寺うえのかんえいじの楼閣は早く兵火にかか芝増上寺しばぞうじょうじの本堂も祝融しゅくゆうわざわいう事再三。谷中天王寺やなかてんのうじわずかに傾ける五重塔に往時おうじ名残なごりとどむるばかり。
素材の史糸ししはどこまで史家の糸で織って行きたいと思うし、またすこしでも往時おうじの実際を紙背しはいに読む読者の試案にもなろうかと、折にふれお目にかけているにすぎない次第である。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果実は小粒こつぶ状のかた分果ぶんかで、灰色をていして光沢こうたくがあり、けばえるから、このムラサキを栽培することは、あえて難事なんじではない。ゆえに往時おうじは、これを畑に作ったことがあった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
弁護士の看板を掲げた家のやけに多いのに眼をみはり、毎日うろうろ赤毛布あかゲットの田舎者よろしくの体で歩きまわっていたのも、無理がなかった、とまあ、往時おうじの自分をいたわって置きたい。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)