彼奴やつ)” の例文
どうせ縹致きりょうなんぞに望みのあるわけアねえんだがね。……その点は我慢するとしても、彼奴やつには気働きというものがちっともありゃしねえ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが彼奴やつはひどく喜んでお礼を言っていたかと思うと、急に昏睡状態に陥ってしまったのです
私はかうして死んだ! (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
従って、彼奴やつが生きて居る裡は、そうした金はお断りしたいと思うね。然し、死ねば別だよ。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに彼奴やつらのことじゃから、足許あしもとを見て、うんと高く値上げするにきまっている。つまり、金博士は、商人に買収されて、あんな警告文を出したのにちがいないと思うが、どうだこの見解は……
と言えばその界隈かいわいで知らぬ者のないばかりでなく、恐らく東京に住む侯伯子男の方々の中にも、「ウン彼奴やつか」と直ぐ御承知の、そしてまゆをひそめらるる者も随分あるらしいほどの知名な老人である。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『いや、今夜の事件も、山鹿に違いない。僕はたしか彼奴やつを見たんだ』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「留学生だね、彼奴やつ等は?」と、新井君は云って自分を見たが
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「御苦労/\」と川地は首肯うなづきつゝおのがポケットの底深くをさめ「れがれば大丈夫だ、早速告発の手続に及ぶよ、実に不埒ふらちな奴だ、——が、彼奴やつ、何処か旅行したさうだが、にげでもしたのぢやなからうナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼奴やつつまみ塩か何かで、グイグイ引っかけてかア。うちは新店だから、帳面のほか貸しは一切しねえというめなんだ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だが、彼奴やつもつまんねえだろうと思う。三日に挙げず喧嘩けんかして、毒づかれて、打撲はりとばされてさ。……おら頭から人間並みの待遇あつかいはしねえんだからね。」と新吉は空笑そらわらいをした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)