強張こわば)” の例文
さっき川島とぶつかった時のような強張こわばった表情になったかと思うと、挙げかけていた手を何時の間にかするりとおろしてしまっていた。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
とまでは言うたが、あとはくちびる強張こわばって、例えば夢の中でもだえ苦しむ人のように、私はただ助役の顔をジッと見つめた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
旅籠のおんなや番頭たちは、この、紙帳蜘蛛の怪異に胆を奪われ、咳一つ立てず、手足を強張こわばらせ、呼吸いきを呑んでいた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は鋼鉄みたいに硬く強張こわばった片方の腕を彼女の腰へまわし、もう一方の手を、その先の煉瓦積みの上にのせた。
子供たちは皆そのまわりに集まって、槌を振りあげる女中頭の強張こわばった手の動きを、面白そうに見まもっている。
と呼んで見ようとしても死滅したような四辺あたりの寂寞が唇を壓し、舌を強張こわばらせて声を発する勇気もない。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お呼吸の苦しい間、お背中が強張こわばっていましたけれど、あ、そう、わたくしもお水いただいて置きましょう。お廊下に出ておやすみになったら? 上山さんの講演も終りましたし。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私の体は凝結したように強張こわばって、頬は痙攣して引きつってしまいました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
不機嫌ふきげん春重はるしげかおは、桐油とうゆのように強張こわばっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お関の表情も、さすがに強張こわばって行きます。
再び忍び足のような音がぼんやりと聞えて来た。彼の醜悪な容貌は恐しい事を予想しているらしく妙に強張こわばった。そして音を立てない様に袋を床に置くと突然電燈を消してしまった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)