座敷牢ざしきろう)” の例文
座敷牢ざしきろうに入れておいたのを知らぬまに飛び出したのでござりますゆえ、お願いでござります。お下げ渡しくださりませ。お願いでござります
わたくしはこの年の地震の事を語るにさきだって、台所町の渋江の家に座敷牢ざしきろうがあったということに説き及ぼすのをかなしむ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「客商売に、座敷牢ざしきろうというのも面白うない。裏山の奥に、掘っ立て小屋を建ててな、見張り人をつけてあるそうだ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この嫂を通して、岸本は父が最後に座敷牢ざしきろうで送った日のことを聞いた。幻をまことと見る父の感覚は眼に見えない敵のために悩まされるように成って行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分との事のために、離座敷はなれざしきか、座敷牢ざしきろうへでも、送られてくように思われた、後前あとさき引挟ひっぱさんだ三人のおとこの首の、兇悪なのが、たしかにその意味を語っていたわ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お母さんは、殺されるに違いないと、自分で座敷牢ざしきろうのようなものをこしらえてはいり込み、私のほかは誰も入れません。それで、お母さんは御無事でも、こんどは私が——」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
座敷牢ざしきろうという造りらしい、土蔵の二階の一部を格子で仕切り、方三尺ばかりの戸口には錠が掛っていて、食事その他の用のあるとき以外は決してあけることはなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
細君の方でも、家庭と切り離されたようなこの孤独な人に何時いつまでも構う気色けしきを見せなかった。夫が自分の勝手で座敷牢ざしきろうへ入っているのだから仕方がない位に考えて、まるで取り合ずにいた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事ここに至っては栄吉も余儀ない場合であるとして、翌朝は早くから下男の佐吉に命じ裏の木小屋の一部を片づけさせ、そこを半蔵が座敷牢ざしきろうの位置と定めた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方では伊賀井の殿様の奥方——弥生の方は、御主人の気違い沙汰に取逆上とりのぼせて、これは本当に気が変になり、ひと間に押し込められて、ていのいい座敷牢ざしきろう暮しをするようになった。
ぜんたいが座敷牢ざしきろうのような造りになっており、召使のお杉はその出入りごとに、いちいち鍵を外し鍵を掛けるのであるが、その日、お杉が炊事場で夕餉ゆうげの支度をしているあいだに
「なんだい。殿さまが座敷牢ざしきろうにでもおはいりかい」
五十余年の涙の多い生涯しょうがいを送った父が最後に行きついたところは、そんな座敷牢ざしきろうであるかと思うと
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わかったられ戻されて座敷牢ざしきろうへ入れられるかもしれない、座敷牢といっても十帖と八帖の二た間で小間使と下男が付くのだけれど、それでもあたしわがままだからいやなの、って云うんです
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一刻も早く遺骸はよそへ移したい、こんな忌まわしい座敷牢ざしきろうの中には置きたくない、とは一同のものの願いであったが、さて母屋もやの方へ移すべきか、隠宅の静の屋の方へ移すべきかの話になると
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)