とばり)” の例文
われはむねの跳るを覺えて、そと人々に遠ざかり、身を長きとばりの蔭に隱して、窓の外なる涼しき空氣を呼吸したり。
「へえ、憚かりさん。おほけに。」と優しく言つて太政官は、ツカ/\と宿直室の隣りの御宸影奉安所の前へ進むと、白いとばりの前に立つて、稍暫く祈念を凝らしてゐた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
南に廊下ありて、北面の壁は硝子ガラス大窓おおまどなかばを占められ、隣の間とのへだてには唯帆木綿ほもめんとばりあるのみ。頃はみな月半ばなれど、旅立ちし諸生多く、隣に人もあらず、わざ妨ぐべきうれいなきを喜びぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
美しくして晴れがましからず、心もおのづから靜まりぬべき室なり。窓の前には厚き質のとばりを垂れたるが、長く床を拂へり。やじりぐ愛の神の童の大理石像あり。
かどを叩けばしもべ出で迎へて、あるじはおん身來まさば、案内あないすることをもちゐざれと宣給のたまひぬといふ。そのさま吾が至るをしたるに似たり。廣間にはとばりおろして、げきとして物音を聞かず。